1997年の4月の23歳の時、私は沖縄から台湾南西諸島のおもしろクルーズ客船で働いていた。
スタッフサービスとして、主な仕事場は、Port O’callという、ショップ兼免税店であった。
ちなみにショップの名前は、Port of call 「寄港地」というところからきている。
首都の台北の近くの基隆(キールン)港から出港するのと、日本最南の首都、沖縄からの出発を比較すると、圧倒的に地理的優位な、台湾人の乗客率が高い。
定員600人のうち、沖縄からの乗船は、50人から100人、残り500人は、台湾からの乗客で占められる。
お客さんは、ほぼ台湾人だ。

その当時の台湾からのお客さんは、ほとんど英語が話せる人はいなかった。
私達、スタッフの国籍は、フィリピン人3名、中国人、日本人1名ずつの5人だった。
フィリピン人も私も、中国語が全く話せないので、頼りになるは、中国人の可愛い女の子、ソンチンだけだ。
だが、600人も乗船すると、ショップは、人だかりで、ソンチンに頼ることはできなくなる。
最初は、日本語や英語を使って頑張ってコミュニケーションを取っていたのだが、それも限界になってきた。
やり取りしているうちにわかったことが、どうやら、彼らが私達に聞いていることは、台湾ドルでいくらか?つまり値段を聞いていることがわかった。
ショップで売られているものの価格は、アメリカドル表示だ。
なので台湾ドルでいくらかと一様に訪ねているのである。
その日のレートによって、値段も変わるので、電卓を見せた。

そのあと、何かをいつも言われる。
タイ グエ ラ! ピエイン ディア バー!
なんだろうと思っていたら、「高いなー!少しまけてよー!」
と言っているということがわかった。
免税店で値引き交渉かー、すごい!驚いた。
きっとお国柄だ。
そこで、お店が混むのは、食事時間の前後。お客さんの食事中の2,3時間は、割と暇な私達。
少し頭でも使おう!ということになり、ソンチン先生の中国語講座が始まった。

とはいっても、ショップでのサバイバル中国語の程度のもので、挨拶や、値段交渉された時に、
「すみません、それはできません。」
という程度のものだ。
そして、とにかく大事なのが、数字。
今のレートでいうと、例えば、100ドルが2,800台湾ドルになるので,千、万単位の大きな数を言えるようにしなくてはならない。
電卓で見せても、ほとんど見ないので、言葉で伝える必要があるとわかった。

やってみたら、台湾人のお客さんの反応ががらっと変わった!
やはり、現地の言葉を一生懸命覚えて、伝えようとしている私達の姿は愛らしくみえるらしい。
売り上げが一気にアップした!!
こっちも調子に乗って、シェイシェイニ!!謝謝!
ついでに、笑顔でにっこり!なんてやると、「いやーもう1つ、買っちゃおうかなー」なんておじさまたちが言ってくれる。
私も若くてあの頃はぴちぴちしていたから、そんなホステスなようなことも通用した!

そんなわけで、5カ月の勤務で数字やら、何を聞かれているかとか、ポイントになる言葉を身につけることができた。
ちなみにもちろんだが、日本人が値段交渉することは1度もなかった。
元気でたくましく果敢に向かってくる台湾人と対照的に、静かな日本人は、フィリピン人クルーが逆にお話ししたいと思うらしく、私の日本語講座も開講した。
でも結局、「もしもし,ともだちー」としか言ってなかった気がする。
ところで、このサバイバル中国語が意外にも、添乗員で中国に行ったときにとても役にたった。
ドライバーさんや、レストランで中国語しか話せない人に、私のちょっとかじった中国語の挨拶や単語を発することで、コミュニケーションが取りやすくなった。
ある日、西安のマーケットにちょっと買いたいものがあったので一人で行った。

そこで、目当てのものを見つけて、
「 いくらですか?えー。高い、ちょっとまけてよータイ グエ ラ! ピエイン ディア バー!」
といったら、
「お前は台湾人か?」
と言われた。
「日本人だよ」と言ったら、
「じゃあ、台湾で中国語を習ったのか?」と言われた。
そう、私の耳から聞いて学んだ中国語は、毎日、元気にやってくるあの台湾人の方々だったので、台湾訛りに自分の中国語もなっていたのだ。

赤ちゃんが耳から覚えるように、私も同じように言葉を身につけたんだと思って、面白いなーって思った。
言語は違うが、こんなことがフランスであった。
フランス滞在の1年間、私は、英語を話す機会がほぼなかった。
最後の2カ月、私は、モロッコとヨーロッパ旅行に出かけた。そこで、英語を久しぶりに話したのだが、その度に、
「なんで、そんなフランス訛りの英語を話すの?」
と言われてびっくりした。
おそらく、私が、1年、フランス語を話している間に口の筋肉の使う場所が変わり、他の言語もそのようになってしまったんだろう。

ちなみにフランス人の話す英語は、I would like to という言葉も、
唇を丸々まるめてアぃ ウッドゥ ライクゥといった具合になり、とにかく聞きにくい。

ぎょー。
私もあんな、英語に聞こえてしまっているんだとちょっと焦った。
それにしても面白いと思った。
ちなみに海外に行くと、日本人でもその国の人っぽくなると以前話したが、言葉も影響があると思う。
口の使う筋肉が違うから、骨格も変わってくると思う。

私は、イタリア語もちょっとかじっていたのだが、イタリア、フランス、英語と話す時の口の使っている場所が違うのを感じる。
ふと気づいたのだが、私は、どの国にいってもなぜか、日本人というと驚かれる確率が高い。
色んな言葉を中途半端にかじってしまったので、顔が変化したのかなと思った。
でも、色々な言語は大好きだ!これからも学び続けたい。
というわけで、本日もご乗船誠にありがとうございました。
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