私は、5年ほど、海外添乗員の仕事をしていた。海外添乗員の仕事の内容は、国によって色々変わる。
アジアは、添乗員もちょっとお客さん気分だ。
なぜなら、ガイドさんが至れり尽くせり、私のケアもしてくれるからだ。
「便乗員」とこっそり自分の事を呼んでいた。
私が添乗員をしていた頃は、中国のガイドさんは、旅行会社からツアーを自腹で買い取って、あとは、自分でいかに儲けを出すか、あの手この手でやっていると聞いた。(あくまでも当時の噂である。)
なので、コミッションを得る為の契約なのか、お土産屋さんに長時間閉じ込められそうになることもある。
そんなわけで、私の仕事は、お客さんをケアすることよりもガイドさんをいかにコントロールするかが焦点となる。
一度、あまりにもがつがつしている男性ガイドさんがいた。
観光地よりもお土産屋さんばっかり立ち寄らせようとするので喧嘩になった。
私が、「なんでそんなにがつがつするんですか?」
といったら
「添乗員さん、中国人13億あるよ。人口10%、日本の総人口あるよ。大変ね。」
と言われた。
だからと言って、お客さんは、お土産を買いに、わざわざ中国まできたのではない。
時間配分に気を付けてほしいと粘り強く交渉をしていくしかない。
喧嘩をすると、今度は、お客さんにも影響してきて、ややこしくなるので、大変だ。
また、バスの運転が、とにかく皆荒い。車線無視の追い越しレース、急ブレーキの繰り返しだ。
毎回、力が入る。
運転手さんは、日本語が話せる人はほとんどいないので、ガイドさんを通して、うまく注意してもらう。なので、ガイドさんを本当に丁重に扱わないと大変だ。
ガイドさんは、日本に行ったこともないのに、流暢に話す。
てっきり、日本に興味があって、勉強したかと思っていたが、大学の入試の点数で勝手に振り分けられると聞いた。
また、1966年から1976年の文化大革命の時代に青春を送った世代は、色々な楽しいことを時代に奪われた被害者だと思う。なので、気難しいガイドさんが非常に多かった。
時代の犠牲者だ。
世代によって、中国人は、特色があり、改めて、時代が人を作るんだなと思った。
これに対して、ヨーロッパでは、ガイドさんの人件費も高いので、アジアのようにはいかない。
さきほどの中国のような最初から最後まで一緒のスルーガイドが付いたことは、5年間で1度もなかった。
空港や、観光地の要所要所で、ガイドさんとミートして、そこから次の場所までは、添乗員1人がお客さんを引き連れていく。頼れる人はいない。
次の土地でガイドさんに会えると、とてもうれしくなる。
自分の味方ができた気分で嫌なお客さんの愚痴も一気に聞いてもらえる。
ところで、各国で会うガイドさんは、日本人でもその国っぽい人種になっている。
ヨーロッパの場合は、いい意味で、非常にドライな印象だ。
ガイドには、空港アシスタントと観光地の説明などをする観光地ガイドにしっかり分かれる。
アシスタントは、両替の手伝いや、空港のターミナルから、バスに乗せるまでのほんの30分ほどの対応だ。
この間に、お客さんが、「ガイドさん、おいしいレストランとか知らないかなー」なんて聞いた日には、「私、ガイドではありませんので、明日のガイドさんにお尋ね下さい。」と一蹴される。
観光ガイドさんも、時間がくれば、きっちり終わる。残業はない。
観光が終わり、ホテルに戻るまでのバスの途中、自分の家の近くを通るのであれば、
「では、私はここで失礼いたします」と速やかにバスを降りて、さーっと消える。
ドイツのロマンチック街道のツアーは、ガイドなしでひたすら、バスで一日移動の日がある。
バスの移動時間は、6時間に及ぶコースもある。
ちなみにロマンチック街道というのは、日本人のイメージする、艶っぽいロマンチックではなく、
ローマ人の通った街道という意味が本当だとガイドさんから聞いたことがある。
私にとっても全然ロマンチックな気分にならないコースだ。
それでも、お客さんに楽しんでもらいたい。
一応、その国の説明や見どころ、子話を挟みながら、マイクをもってお話しする。
ただし、国内添乗員のようにお客さんの前に立って、話すのは、危険ということで、禁止されている。
なので、私は、一番前の席か、ドライバーさんの横の補助席に座って、資料を堂々と読みながら、話すことができる。
自分も含め、時差ぼけもお客さんは、まだ解消してないことが最初は多い。
揺れるバスに乗るとゆりかごの赤ちゃん状態になるようだ。
1人、2人と私の話しを聞きながら、眠りの世界へと脱落していく。
自分は、必死なので、一生懸命話していたら、ドライバーさんから、「おい、全員寝てるぞ」なんてミラー越しで言われたことも多々ある。
初めて行く場所はド緊張だ。
事前にレポートを読み込み、先輩や同期から色々情報を仕入れていくものの、情報源が少ないので、たくさん用意した資料もあっという間に読み終えてしまう。
お客さんをみると、まだ、目がぱっちり開いている人が多い。
どうしよう。
でもそんな時の秘密兵器が私にはある。
それは、
「世界の子守歌全集」
というCDだ!
これをかければ、皆、穏やかに居眠りタイムに入り、私もほっと一息できるのである。
ただ1つ問題がある。
それは、ドライバーも眠くなるのだ。
かくして、私は、ドライバーさんの隣に座り、おしゃべりに付き合わなければならないのであった。
皆さん、添乗員さんは、とっても頑張っていますから、よく言うこと聞いてあげてくださいね。
それでは、本日もMutsi(ムッツィー)ツアーにご参加いただき、誠にありがとうございました。
また次回まで!
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