海外添乗員のお仕事では、なかなか普通じゃできない経験が沢山できた。
私は、手配旅行と言われる、オーダーメイドのツアーをよく担当した。
今日は、その中で、美容師さんをお連れして、ヨーロッパに行ったお話しをしたいと思う。
とある、美容師グループの研修の一環として、50人ほどの美容師さんを添乗員2人で率いて、ヨーロッパに行った。
ちなみに、美容師さんは、英語でbeauticianという。
ビューティシャン!って響き、なんかかっこいー-!
ロンドンで研修があるので、その前に、イタリアのローマで観光。
参加者の美容師さんは、入社3年目の「新人さん」。
美容師さんのほとんどは、高校卒業後、美容師学校で2年勉強してから、美容室に就職となる。
それからがしばらく大変だ。
はじめは、接客業に適する言葉遣いなどを徹底的に叩き込まれ、最初は、切った髪の毛ばかりを、ほうきでかき集めたり、お掃除などの雑用ばかり。
それから、シャンプーやトリートメント、マッサージなどを任され、パーマを覚える。
ようやくカットの基本に入り、3年目くらいでやっと、スタイリストとして任せてもらえ始めるという修行だ。
同期の半分以上が1年以内で辞めるという。
美容業界が厳しいのは、働く前から、彼らはわかっている。
ただ、シャンプーや、カラーリングなどに入っている薬剤が肌に合わなくて、手荒れがひどくなり、血が止まらなくなったりすると、普段の生活に影響してしまう。
そういう場合は、泣く泣く諦めるらしい。
また、ある人は、指を切ったら、血管から、髪の毛が出てきたという、嘘か本当かわからないけど、そんなびっくり仰天の逸話も聞いた。
働き方改革が打ち出され、美容業界もあの頃のような、スパルタ式の環境ではないかもしれない。
私が、このツアーを担当したころの彼らの労働条件は過酷だった。
開店前からの準備に追われ、閉店後は、かつらや、カットモデルを自分で探して、カットの練習を先輩から教えてもらったり、居残り自主練をするそうだ。
店舗によっては、会社の寮があるのだが、そこには、ただただ、寝に帰るだけと言っていた。
休みは、その当時、週1回だけだったらしく、疲労で、ひたすら寝たと言っていた。
こうしてようやくハサミを持てるようになった頃に、この海外研修に参加できる。
彼らは、1人前になれば、海外に行けるほどのお休みは、まずないと覚悟していた。
だから、研修と題して、堂々と海外に行けるこのチャンスを励みに3年間、頑張ってきたと多くの参加者が話していた。
私は、担当添乗員として、空港で初めて彼らと顔を合わせるのだが、遠ー-----くに見えた彼らが自分の担当グループということがすぐにわかった。
髪の毛の色がカラフルだったり、髪型が個性的で、服装もおしゃれな人ばかりの50人の集団。
とても目立つ。
ローマは、研修は一切なく、純粋な観光だ。
午前中、バスでガイドさんの案内を聞いて、午後は、フリータイム。
添乗員として、通常のお客さんにお勧めする、遺跡やら、教会、美術館などには、彼らは、目もくれない。
蚤の市やら、古着屋さんを目指してくる人がほとんど。
それは、私の知らない情報ばかり。
3日ほど、ローマを満喫してから、ロンドンに向かい、目的の研修が始まる。
ロンドンにある美容学校に通い、カットをはじめとする、さまざまなテクニックの指導を受ける。
皆、目つきがガラッと変わる。
授業は、とても為になるらしい。
ただ、いわゆる、白人のブロンドの髪質や、外国人の骨格は、日本人とは違うので、そのようなスタイルを習っても、日本に帰ったら、対象のお客さんがいないという。
「あー、色んな人種の髪の毛、いじりたいー」と言っていた。
夕方まで研修があり、夜は、レストランでも行くのかと思いきや、そうではない。
彼らは、元々、食事をゆっくり取る習慣がない。
美容師として働いている時も、忙しければ、食事抜きなんて事も当たり前だし、食べれても駆け込んで5分くらいで食べるとのこと。
だからロンドンでも、テイクアウトのお店で何か買って部屋で食べる。
そして、彼らは、お互いの髪を切りあったり、カラーリングをしあう。
翌朝、ロビーに集合すると、ほぼ全員の髪の色や、髪型が変わっている。
ロンドンやローマで仕入れたカラーリングを試しているそうだ。
そこで売っている色は、日本で見かけないものばかりでとても珍しいらしい。
なので、変身後の彼らにホテルのロビーで会うと、誰が誰なのか、すぐには認識できないのだ。
だって、昨日までピンクの髪の毛の子が、今日は、緑や、ブルーのグラデーションの入った髪型に大変身しているのだ。
情報のアップデートが大変だ。
もう一つ、彼らには、宿題がある。
自分の顧客にロンドンから絵葉書を送るのだ。
これは、自分の担当するお客様に、今、自分がロンドンで研修して、学んでいるということをアピールする作戦で、この研修の伝統になっている。
1人当たり、100名ほどに送るので、私達添乗員は、大量の切手を郵便局に買いに行くのが仕事だ。
研修は、5日間に及ぶのだが、最終日近くなると、お互いの髪を染めるのに飽きて、添乗員の私達が狙われる。
「Mutsiさん、髪の色、変えてみませんかー?」とか、「ちょっと髪型、変えてみたいなー」なんて、耳元でぼそっと、それも絶妙なタイミングでつぶやかれるので、ドキドキする。
ほとんどの人は、将来自分のお店を持ちたいという。
あれから24年も経っているので、彼らのほとんどは、もう40歳を過ぎている。
ロンドン研修に参加した50人のうち、どれくらいの人が、自分の店舗を持つまでになったかなーなんて思った。
普段、なかなか出会えない人達を海外にお連れして、彼らの専門職のお話しを聞けるのは、とっても楽しい。
自分が美容院に行った時に、逆にこの話しをすると、美容師さんも「おもしろいー」と聞いてくれる。
というわけで、ビューティシャンツアーにご参加いただき、誠にありがとうございましたー!
添乗員の面白はなしいろいろは、こちらへどうぞ↓
コメント